第5分科会解題
地球時代の環境政策と法制度



 第5分科会は、法律家、自治体関係者、議員、市民など60名程の参加を得て、基調報告に続き、前半は外国からの報告や研究発表、後半は、国内の参加者からの報告がなされた。
 以下、順次その内容を紹介する。



1 基調報告(山村恒年 元神戸大学教授 弁護士)


テーマ 「永続可能な社会の環境政策と法システム」

 SD概念を、哲学・倫理・経済学思想に遡って分析し、人間中心主義の思想と、地球生態系中心の思想を対比した。
 世代間の公平の認識や、発展の概念の検討をはじめ、法哲学上での正義、権利、合理主義などの原理の意味をも分析した。

 そしてリオ宣言(人間中心主義)の意義と限界を示し、NGOの地球憲章に見られる地球生態系中心主義の重要性を説く。
 また、地域でのSDの実現のために、功利主義や集権主義を改め、環境と開発の統合のための計画策定、経済的手法、効果的法令の整備などの必要性を指摘した。
 そして国家や企業に支配されない内発的発展は、NGOが積極的役割を果たし、文化の多様性や、人的能力の発展を保障していく必要性が強調された。



2 G.メイヤーズ氏(マードック法科大学 オーストラリア)


 SDを国家的・国際的に政策として取り入れることの倫理的・政治的意義と、その限界について、という趣旨のテーマで報告がなされた。

 まず、ESD(Ecologically Sustainable Development)概念について、その定義の困難さと、その内容について共通認識を形成する必要性が指摘された。

 また、途上国の貧困の克服の問題は、先進国が自らの義務を認識しないと解決できないとする。
 政治、経済の上で、ESDの実現のためには、個人と国家のレベルで価値の転換が必要である。そこでは、人間と自然、人間社会相互間の関係において、それらが何によって支えられているかを確定し、それと、我々が最大の価値を認めるものの双方をどのように維持するかの決定が必要である。



3 C.カウン氏(九州大学客員教授)


 ― 米国でのエネルギー・環境とSDの法的検討 ―

 供給側への政策の例は、直接には、石炭火力発電所や工場向けの規制、間接的には、自動車や家電製品工場向けのものがある。
 需要側への規制として連邦政府によってなされた企業平均燃料経済基準(CORPORATE AVERAGE FUEL ECONOMY−CAFE)は、車の効率を確保するために有効であった。
 CAFE基準は、自動車製造者に対するガロンあたり走行マイル(mpg)の最低基準で、1985年までには、その基準は27.5mpgとなった。

 州や地方政府と協力することで、最大の成功が得られ、電化製品に関する規制−EPAの「グリーンライト計画」では、各州は政府施設を調査し、「それが利益になり、照明の性能を落とさない場合に」より効率のよい器具をとりつける、ということになった。

 1978年の公共施設規制実現法(PURPA PUBLIK UTILITIES REGULATORY PRACTICE ACT)は、国の300の独立施設に、独立に生産された低価格のエネルギー源を購入するよう求め、コジェネを促進した。
 一方州政府は、CO2等放出の張本人でもあり、公共事業の規制、建築法の公布、土地利用計画 ― すべて州の権限に属し、州の環境法制における権限もまた大きい。

 多くの州と企業との間で、最大の効率と最小の環境汚染を確保するための「最小費用計画」を用いている。
 最小費用計画は「環境への関心やその他の責任を含んだ全体としての消費者のコストを最小にするような組み合わせを選択するための発電方法を調べる過程」で、エネルギーを生み出す上での「環境コスト」が計算できる。

 又、いくつかの州はより燃費のよい車を買うことをすすめる刺激策を設け、たとえばコロラド州は効率のよい車を買った人あるいは非効率な車を改造した人に、200ドルを払い戻す。カリフォルニア州のドライブプラス計画は、汚染の量に比例して販売税率を変動させる。

 州は建物を買うときに、ライフサイクル費用計算として知られる方法を始めた。それは「建物のデザインと建設のやりかたを建物使用期間中の保全やエネルギー消費を含む費用が最小になるようにする」という考え方だが、マサチューセッツ州などはさらに進んで、建築家や技術者の責任という見地からの要件を法制化した。
 いくつかの州で住宅が売却されるときに、効率的な装置を要求する「住宅エネルギー保全法」(RECOs RESIDENTIAL ENERGY CONSERVATION ORDINANCES)を実施した。カリフォルニアのデービスとバークレーでは、家を売る前にエネルギー効率を証明するよう求める法令を通した。

 最後に、発展途上国は、これら基本的な方策のための財源も技術訓練の手段もない。この面で、途上国を援助するべきだ。途上国ですぐ使えそうな手法は「最小費用計画」で、費用を最小にするために供給方法と保存方法を結合させることを含む。こうした法制と知識を輸出するための費用は比較的安い。
 まずなにより途上国が最新の技術についての情報を得られるようにする必要がある。
 日本はこの数年間に途上国で環境保全に役立つ商品の販売を促進してきた。
 SDは全世界の積極的な参加を必要とし、我々の法的技術的部門での最善のものを共有することで永続可能性をより現実的な目標とすることができる。



4 藤原猛爾(弁護士)


 日本では、60年代以降の開発により、自然環境を著しく変化させてきたが、既存の法体系は、環境保護の上できわめて不十分であった。
 93年11月環境基本法が公布されたが、いまだ以下の点で問題が残っている。

(1)個々の法律の目的が様々で相互調整がなされていない。
(2)主務官庁が分岐し、行政庁間の調整が困難な場合がある。
(3)環境保護法制と開発法制の調整がはかられていない。
(4)国民の権利との調整が不十分である。
(5)住民参加や情報公開等の民主的規制が不十分である。

 そして、具体的な法制度上の問題として、
 開発を抑制すべき地域の指定が不十分で、基準が全国一律で地域に応じた土地利用や環境配慮ができない等多くの問題点が指摘できる。
 そして、あるべき法制度として、環境権や自然共有権など国民の権利を保障し、国・地方の全体の土地利用計画を優先するとともに、地域環境管理計画で開発を規制し、住民参加と、実効性ある環境アセスメント制度の確立が必要である。



5 岩田薫氏(長野県軽井沢町議)


 「環境問題・地方議員連盟」では、環境基本法に盛り込むべき内容について衆議院議員選挙前に、各政党にアンケート調査を行ったが、その際の積極的姿勢は、環境基本法に殆ど生かされなかった。アセスメント法制化や情報公開も結局反故にされてしまったことに抗議の申入れを行った。
 またアジェンダ21の我国の国別行動計画についても、「地方公共団体のイニシアチブ」の認識に不十分な点が多い。



6 松井弘次氏(滋賀県長浜市職員)


 長浜市の住民参加による街づくりを紹介する。
 快適な環境づくりの主体は市民であるとの理念で、84年から水性生物の調査からはじまり、88年には「アメニティながはまプラン」を市民とともに策定した。
 『水、ひと、とき、行きあう街』を長浜市の快適環境像とした。
 市民の手による快適な環境づくりの組織「ながはまアメニティー会議」が市民、団体、企業により89年に設立され、表彰制度、情報ネットワークなどの活動をしている。



7 歌川学氏(公害・地球環境問題懇談会)


 自治体への注文 ― SD/SSのための地方自治とは

 アジェンダ21で、自治体は変革の主体として位置づけられているが、日本では、ゼネコン汚職に見られるように利権共同体の一部となり、SDのための施策は手つかずの状態にある。
 しかし、一方で自治体は膨大な行政データを保有しており、環境監査制度を利用する場面をはじめ、自治体の施策を活用できる部分は広い。具体的にさまざまな施策を検討すべきである。
[筧 宗憲]