市民主導の再生可能エネルギー普及
−地球温暖化防止と持続可能な社会の構築に向けて−


和田武 (立命館大学・産業社会学部)



<要約>


21世紀の地球の気温上昇を2度以下に抑えなければならない。そのためには、世界は60%以上、格差を考えた場合、先進国は90%以上の削減が必要である。そのためのエネルギーシナリオは、石炭、石油、天然ガスのエネルギーを、省エネと、エネルギー効率の改善による削減に加えて、再生可能エネルギー普及の積極的な推進が必須の条件である。ドイツではすでに2020年までに45%削減、デンマークでは2030年に50%削減シナリオを持ち、再生可能エネルギーの普及が始まっている。それらの国では、削減の目標が高いこと、市民の積極的参加があり、国が普及の政策を持ち、原子力政策など違いがある。再生可能エネルギー普及と市民参加の最新情報を紹介。



1.はじめに〜地球温暖化とエネルギー



最近、調査している具体的な部分について、写真等も踏まえて3、4、5に焦点を当てて報告します。


IPCCが、21世紀の地球の気温上昇の予測をしているが、過去の1000年の気温の変動をあわせて見ると、今後、いかに激烈な温暖化が起ころうとしているかをあらわしています。


1.4度から5.8度、誤差を入れて、気温上昇が起きたときの様々なリスクが第3次報告で示されています。脆弱な部分、たとえば小島嶼国の生活、高山の生態系ではリスクが様々な形で既に現れているのですが、2度になると赤信号になります。異常気象も同様です。現在すでに現れているそういう影響が、さらに強まっていくことは当然のことですが、最も重要なのが、地球規模の不可逆的な変化がおこりうるということです。最近の映画ザ・デイ・アフターツモローという最近の映画がありました。科学的根拠には若干問題があるのですが、大変な変動が起きるということです。たとえば突如として寒冷化に向かう、海洋の大循環がストップする、海底に存在するメタンガスが海水の温度上昇によって噴出しますと、メタンはCO2の20倍の温室効果があり、さらに気温が上昇し、より深いところから噴出することになり止めることができない。そういうリスクが2度から可能性があり、4度、5度上昇になると危険な状況になる。そこで、2度以下の温度上昇幅に何としてもとめなければならないと言えます。


そのためには、すくなくても世界のCO2の排出量を、21世紀中に60%以上の削減が必要です。CO2の排出の格差を考えれば、途上国と先進国の格差があるので、先進国は90%以上の削減が必要です。今後のエネルギー対策は、そのような目標を実現するためのシナリオを描いて、実行しなければならない。
日本の場合、2000年段階で90年比9%増加。総合資源エネルギー調査会等で検討されているが、2030年までのエネルギー需給見通しで、CO2排出量は10%削減という、それでは、少なくとも21世紀中に90%削減はとても無理と言えます。


そのような中で、すでに中長期的なCO2の削減目標をかかげ、積極的な温暖化防止対策をとる国も現れている。たとえば、ドイツの場合、2000年に出した温暖化防止計画では、2020年までに90年比で45%削減、デンマークは2030年までに50%削減、イギリスは2050年までに60%削減する目標を持っています。ドイツでは、連邦環境省(BMU)がさらに2050年までに80%削減するエネルギーシナリオを検討し始めています(BMU,2003)。これらのエネルギーシナリオは、原発を増やさず、石炭・石油を抑えて、その代わりに再生可能エネルギーを増加させるというものです。

日本でもきちんと国際的責務を果たさなければならないと考えたとき、どのようなエネルギーシナリオがあるか。最低限これぐらいのエネルギーシナリオを実現すべきではないかと、私が考えたエネルギーシナリオですが、現段階の原子力、石油、石炭、天然ガスのエネルギーを、省エネとエネルギー効率の改善による削減に加えて、再生可能エネルギー普及を積極的に推進し、それを中心とするエネルギー利用構造を実現することが90%削減には必須の条件であるということです。従って、今政府が出している2010年の再生可能エネルギー普及の提案目標ではまったく不十分だと言えます。これに対して、私は、これよりもっと高い目標を出していますが、実現が可能であると提案しています。



2.再生可能エネルギー普及動向



CO2の排出を国際的にみると途上国、北米を中心に増えており、全体としても増加傾向が止まっていない状況です。内訳をみますと、エネルギー資源別の年間伸び率を1995年から2000年の間ついて、IEAEとOECDの統計で見ると、風力がもっとも大きく、太陽光、バイオガス、廃棄物、太陽熱などの再生可能エネルギーに関連するエネルギーの伸びが大きく、一般的な、今まで使われていたエネルギーの伸びが小さくなっています。エネルギーの種類別では明らかに再生可能エネルギー中心の伸びが始まっています。


各国のエネルギー政策が反映する研究開発費用で見ても、再生可能エネルギー、省エネなど環境保全的なエネルギー対策に重点が移り、世界の趨勢になっています。


また国別の水力を除く再生可能エネルギー電力比率の推移で見ると、欧州諸国、特にデンマークやドイツで急速に進みつつあります。


もっとも伸び率が高い風力発電に注目すると、2003年末の設備容量では、最大のドイツが1400万KW以上で世界の35.5%を占め、以下アメリカ、スペイン、デンマーク、インドとなっています。日本はドイツの20数分の1です。


国の人口100人あたり、国土面積1km2あたりでは、デンマークが最高で、ついで、ドイツ、スペイン、オランダとなっている。風力の電力量はヨーロッパの諸国が上位を占めています。


2番目に伸び率が高い太陽光発電をみますと、日本の設備容量が一番大きく、ついでドイツ、アメリカ、インド、オーストラリア。トップの日本でも、風力でトップのドイツの1400KWに比べると30分の1というものです。
国土面積あたり、1000人あたりで比較すると、日本とドイツが高い、以下スイス、ノルウエーのヨーロッパ勢が続いています。


1900年95年2000年の5年ごとの、推移を見ると、水力を除いた再生可能エネルギーをみると、日本、アメリカはほとんど伸びていない。ヨーロッパは増えています。


今非常に伸びているのはドイツ、デンマーク。日本は水力が多く、バイオマスが少し、太陽光が伸びているといっても、全体としては日本は量的にたいしたことがない、ドイツや、デンマークは水力以外の伸び、とりわけ風力の伸びが著しい。


その背景には、温暖化問題に対する各国の政府の姿勢の違いがあります。当然、日本の場合、京都議定書の6%の目標にもかかわらず、達成の方法としていわゆる温暖化対策推進大綱で書かれているのを見ると、実質的な温室効果ガスの削減目標が非常に低く、森林吸収や温暖化ガスの排出権取引などで大部分を削減しようという姿勢を示しているのに対して、ドイツや、デンマークは実質的な削減をしようとしている。しかも、EU全体の削減目標が京都議定書で8%であるのに、ドイツ、デンマークでは、21%の削減目標を持ち、さらに20年、30年により高い削減目標を設定しています。それにかかわるエネルギー政策としても、再生可能エネルギーの普及目標が日本に比べてはるかに高く、長期目標も持ち、普及の政策も異なり、普及への市民参加の度合いも高い。原子力政策にも非常に大きな違いがあります。



3.再生可能エネルギー普及と市民参加



主題である、市民参加、市民主導について、風力はドイツ、デンマーク、太陽光は日本が先進国であるが、これらの国で誰が推進しているかを見ていきたい。


デンマークでは、風力発電が総電力の17%を賄うまでになっているが、導入された風車全体の約85%は住民が所有している。電力会社は10数%。電力会社は、政府の与えられた目標を何とかやってきただけで、決して主体的に取り組んできたわけではない。73?74年の第一次石油危機以来、住民たちが最初に小型風力発電の導入に取り組みはじめ、それにより国内に風力発電機メーカーが生まれ、その後も市民が参加しやすい制度の改革を実現させながら、普及を促進してきた結果、デンマークの風力発電普及が世界1となったのです。


はじめは、すべて共同所有でしたが、最近は住民・個人所有が増えてきています。それは、風車は1億円以上かかるが、金融機関が融資してくれるので、個人でも問題なく設置できるようになっているからです。なぜ融資してくれるかというと、その電力を高く買い取ってくれるという保障があり、風車の耐用期間内の売電ですべての設置者が支払う総経費がまかなえるようになっているからです。これが、電力買取保障制度です。このように市民が普及条件を作りながら、高い所有率を示してきました。現在の所有戸数は15万戸、家族も含めると45万人、デンマークの人口530万人であることからみると10人に1人が所有家族の一員ということになります。


市民所有が普及を促進できたのは、風力発電電力を電気料金の85%価格で電力会社が買い取る制度と初期の風車が高額だったころの設置補助により、設置者が損をしない仕組みをつくったためです。後には、風力発電機所有者には電力税や炭素税の免税も行われるようになりました。さらに重要な点は、再生可能エネルギーは地域に賦存する資源であることから、所有する人を地域関係者に制限し、出資金の上限を設けて参加者しやすくすることで、企業やよそ者が利益を吸い上げるのを防ぎ、利益が地域に還元できるようにしてきたことです。


ドイツの場合、80年代から普及してきたデンマークの仕組みの中に電力買取保障制度があるのを学び、91年から「電力供給法」を施行し、風力発電電力を電気料金の90%価格で買い取るようになりました。それ以来、ドイツは風力発電の普及が急速に進み、96年には世界最大の保有国となったのです。以前は日本と大差がなかったのに、現在は大きな差があるのは、電力買取保障制度の有無の違いです。ドイツでも、住民個人や共同所有が多く、また、投資会社が風力発電のプロジェクトをたて、それに対して出資を募り、これも市民が出資をし、市民が参加しています。


ドイツの場合も、単に国がやったというだけでなく、デンマークと同様の市民の運動があり、その結果このように進んできました。95年にアーヘン市では、市民の発案で、風力発電でも太陽光発電でもそれぞれの出資者が「損をしない」買取価格にする「アーヘンモデル」を導入した。95年の太陽光発電電力の買取価格は電気料金の約10倍もあった。その結果、この地域では太陽光発電についても普及が急速に進んだ。また国内の多くの市にも類似の制度が広がった。そのような流れの中で、2000年に国の法律として、「再生可能エネルギー法」を定め、あらゆる再生可能エネルギー電力に対して買い取り保障される制度が生まれました。例えば、太陽光発電の電気は2000年に99ペニヒ/KWで買い取ってくれ。20−25ペニヒ/KWの電気料金の4−5倍の価格で買取ってもらえるので、太陽光発電設備をつける家庭や共同で草原などに大規模な太陽光発電設備を設置する例が増えました。風力発電、バイオマス、小水力などの種類毎に買取価格が定められ、また規模の大小によっても買取価格が調整され、どういう条件でやる場合も設置者が損をしない仕組みです。


風力の場合、最初の5年間は高く買い取られ、次いで20年間は少し低い価格での買い取りを保障。風の弱いところでは発電電力量は減るので、高く買い取る期間を延ばし保障する、設置者が損をしない買取価格制度になっています。電力会社が買い取るのですが、その財源は電気代に1%オンして市民が払って賄われています。日本でも、電気料金24円の2%に近い電源開発促進税(以前はkW時当たり44.5銭、いまは40銭)を市民が電気代と一緒に支払い、主に原発立地地域に使用されています。日本では原発を増やすために使っているそのような費用を、ドイツは風力に振り分けているわけです。


ドイツで2000年に法律ができ風力もさらに増えた。しかし2002年に比べて、2003年には若干減りました。それは、活動が弱まり、導入量が減ったわけではありません。ドイツでは、陸上の風力を建てられる立地の可能な地域のほとんどに、建てられてしまったのです。それでも、いまは以前に建てた小さいものを立て替えるなどして、2000メガワットつまり200万KW以上を1年間で増やしている、日本は2010年までの導入目標を300万Wとしているのに対して、過去4年間、ドイツは毎年200?300万KW増やしている。4年間で1000万KW以上増加した。法律を制定したことで、増えているのです。


具体的な事例を紹介します。風力発電の盛んな北ドイツのシュレスヴィッヒホルシュタイン州の市民のプロジェクトを農村の民宿などに止まって調査して回りました。この州の風力発電電力は総発電量の35%以上を占めていますが、風力発電設置の90%以上が住民参加です。また、バイオガス、太陽光発電も数多くおこなわれています。


フリードリッヒ・ウイルヘルム・リュプケコーク村では、30年かけて北海を埋立たてた地域、あちこちから集まってきた人々、約180人の村で、40戸の住民が出資して市民会社をつくり、32基(1,8万KW)もの風力発電所を所有しています。1991年から徐々にふやしてきました。現在、参加している農民は、風車から、農業収入を上回る収入を得ています。風力発電所の経緯と状況を、社長のフェッダーゼン氏(農民)と村長さん、事務所で働くひとたちから聞きました。

風車を持つことにより、地域全体が豊かになった。村も営業税や所得税収入などで豊かになっている。それらの収入で、学校を改修したり、下水道設置の個人負担を減らしている。最初は批判的な人たちがいたが、その理由は、緯度が高いところなので、「陰が、家の庭にやってくる」というものです。今ではルールができて、法律的に解決されています。参加していないとそう思うのですが、ほとんどの方が参加し、今では82%が賛成し、反対は0です。リパワーリング(建て替え)増設する新会社には、150人の参加が見込まれています。再生可能エネルギーは地域資源であるので、村も豊かになる。利益が、地域に還元されているということが起こっているのです。


このようなのは特異な例ではなくいくつもあり、隣の隣の村でも行われていました。どこにも普通にあるということです。そして、雇用も新たに生まれている。この市民風力発電会社は、建て替えのときに、中古風車をアフリカ諸国に送るという計画を持ち、国際貢献もしている。さらに電力会社の変電所を使うと使用料をとられるので、変電所まで自分達でつくり、市民個人や共同の風力発電電力を受け入れ、運営もしているということです。


電力会社のウインドファームは一箇所にたくさんつくります。電力会社は、先ほどもいいましたが、喜んでやっているわけではありません。効率的発電するということで一箇所に作っています。


さらに、陸上にたてる場所が減ってきている中で、市民はオフショアつまり海の上に風車を建てる取り組みをしています。北海上に3000kWの風車を80機建設するという大計画です。これは日本に現在あるすべての風力発電の3分の1に相当します。3年前に計画が立てられ、総額4億ユーロ、その20%を市民出資でまかなう予定でしたが、8430人から1億ユーロの出資希望があった。アセスも終わり認可されました。一時は鳥類保護団体からの反対があったが、温暖化のほうがはるかに鳥類に対して悪影響があるという意見も多く、話し合いを行い、結果的には解決しています。


太陽光発電は2000年に法律ができてから、風力発電以上に年間の導入量は大きく伸びました。99年に比べて、3倍、5倍、10倍近くになるという状況が生まれています。個人の太陽光発電が以前に比べて、ずいぶん目に付くようになってきています。総量としては、まだ日本よりすくないですが。2004年の1年間の導入量は日本以上でした。日本と違う点は、たとえばRodenaes村では、地域で農民達が20ヘクタールの牧草地に、4000KWをずらーっとならべる計画を考えています(今実証試験中)。建物以外にも設置が検討されているのです。「再生可能エネルギー法」で20年間の再生エネルギー電力の買い取り補償があるので、損をしない仕組みが充分成立している。有志が村民全員に参加を求めており、ほとんどが積極的だと言われています。出資者は年6%の配当金が得られる予定です。借地の値段、設備の設置費用を充分支払うことが可能になっています。募集条件は、1口25ユーロ(25万円)、配当は6%ですから。日本で貯金するよりよりはるかに良い条件です。


バイオガスも急速に伸びています。やはり2000年の法律施行後増加しています。バイオマス発電量全体が増加しています。バイオガスは農業と非常にかかわりが深い、バイオガス発生の原料の中心は畜産の屎尿であり、畜産農家からの屎尿でガスを発生させています。日本では家畜の屎尿は自前で処理しなければならず農家の負担が大きいが、ドイツのStorberg村では、市民共同で作ることで、つまり、畜産農家も出資者になり、参加した畜産農家は、屎尿をただで引き取ってもらえ処理費が不要になり、発生したバイオガスを用いたコジェネレーションで福祉施設や住宅に熱・電気を販売することで、経営が可能になっている。おまけにバイオガスを採った後の液肥は有機農業用に無料で使用でき、肥料代が助かっています。


このようなドイツにおける、市民参加型の再生可能エネルギーの普及のバックにはNGOの存在が大きい、協力共同ですすんできた。普及制度も同様で、だれかがしてくれたわけではなく、地域の市民の取り組みの運動の積み重ねがあって、ドイツの制度が変わってきたのです。


日本でも、菜の花プロジェクトというのがあります。滋賀県の環境生協の藤井さんたちが始めたもので、菜の花を植えて、食用油をとり、その廃食油をBDF(バイオディーゼル燃料)にして利用しています。ドイツは菜種油をそのままBDFにしている。それに従事している農家はバイオマス政令で、損をしない仕組みになっていて、大きな伸びを示しています。BDFは免税されていますので、石油ディーゼルより安く販売され、農家の大きな収入になっています。


日本では太陽光発電の普及はどうか、我が家にも3KWを設置していますが、皆さんのなかにも設置されている方がおられるかと思います。最初は試験的に電力会社が設置したが、今は圧倒的に市民が自分の住宅に設置しています。同時に市民共同で太陽光発電を設置する運動がありますね。1997年に滋賀県のナンテン共同作業所の工場の屋根に4KWを17任の出資で設置しました。20万円の出資で年に4000?5000円の配当です。損をするのは最初からわかっていましたが、やってみるとどうなるか、どういう影響があるかと取り組んだわけです。ですからそんなに広がることはないだろうと思いましたが、その後、形はいろいろあるが、現在では、50ケ所以上に増えています。節電した分だけ寄付するやり方、自治会の自治会費で自治会館に設置するような団体所有、それに市民会社方式、地域共同方式、町の発展とあわせて実施するなど様々な方式で広がっています。市民会社方式は主に風力です。最近に作られた太陽光発電としてはもっとも大きい奈良の20KWは、大変なお金を出し合って協力して設置されました。


風力発電所では、市民会社での設置は3ケ所。現在準備中のものが1ケ所2機。既設の風力発電買取価格は1KW時当たり11円台で電力会社が17年間買取保障している。最初に建設された北海道の風車は、2億円の建設資金のうち最低6000万円を市民から集める予定でしたが、99年に3ケ月で1,4億円集め、配当を年2%出しています。その後秋田、青森と続いて建設されました。青森の場合、立地場所(鰺ヶ沢町)の町民出資者へは配当金を3%、青森県民2%、全国枠の人たちに1%というように、地域の人に最も利益を還元するという理念が貫かれている。このような取り組み地域に様々な好影響を与えている。


自然エネルギー普及の世論を高め、その担い手を養成するために、自然エネルギー学校が、埼玉県の小川町で1996年に始まりました。関西では99年から京都でおこなわれています。受講生として毎年30人が参加。兵庫、名古屋、福岡、岡山からの受講生たちが、それぞれの地域に同様の自然エネルギー学校を開校し、再生可能エネルギーの普及に貢献するということが起きています。


野洲町は、地域共同太陽光発電所作りをしている町ですが、ご紹介をしたいと思います。多くの自治体では、地域の再生可能エネルギーの普及計画である新エネルギービジョンをNEDの補助金を取得して策定していますが、それらの、多くは箱物計画で、どこかに風力発電を立てる、学校に太陽光発電をつくるというような計画が主です。しかし野洲町では、持続的に、地域が参加しながら、普及を推進していけるようなソフトシステムをつくろうということになりました。私もビジョン策定委員会の責任者として参加しました。住民参加の部会をつくり、住民が参加して計画をつくり、その後、自分たちが主導で実施していくというやり方です。そのひとつが地域太陽光発電所つくりです。その他の部会には森林部会、廃食用油の回収、自治会で温暖化防止をすすめる部会、企業の環境問題担当者からなる部会、政策に関心のある方たちなどの部会があり、それらとのやり取りで計画を作っていきました。

地域に自然エネルギーを普及するとき、日本の制度では、これまでも市民は損をするのがわかっていました。それを損をしない仕組みがないかということで、策定委員会から住民の部会に持ちかけました。そこで、住民が発案したやり方です。住民が太陽光発電のために、出資したら、その1割増しの地域通貨をNPOが発効します。お金が一定額集まったら自治体の公共建築物に太陽光発電機を設置します。発電電力は電力会社に販売します。地域通貨はどういうふうに利用できるかですが、自治体の様々な施設の入場券に使える、協賛企業をつのりその協賛企業が商店でしたら、商品の購入に1割を地域通貨を使える、福祉関係サービスの何%をあてることができる。有機農産物の購入に利用することができるシステムを作ったのです。協賛する事業者が150ほどあります。町全体で再生可能エネルギーの導入の仕組みつくりができたのです。いろんな応用が可能です。その結果、野洲には次々と地域共同発電所が、市民発電所、団体所有の自治体所有の発電所などとともに、生まれてきました。


バイオマスの利用では、間伐ができていなかった森林で、市民からの間伐参加者を募集すると、募集人数以上に参加があり間伐が進んだ。参加者には。きのこや山菜などの山の幸を利用したり、間伐財の一部を利用できるというメリットがある。間伐材からいろんな製品が、野洲ブランドとして大工さんがつくって、そのときに発生するかすをチップにしてプールの燃料に使う。地域に雇用を生み出していく。森林組合で林業をする人はひとりもいないが、大工さんは半分趣味で始めたが、今は会社を辞めて大工さんになった。このようなことができるということです。地域通貨が使える仕組みが町全体に広がっています。



4.市民による再生可能エネルギー普及促進論



ところで、なぜ、再生可能エネルギーの普及に、市民参加が有効なのかということですが、再生可能エネルギーの持っている本質がそのようなものであるということです。再生可能エネルギーは、どこにでもあり、無料で、環境保全的で、小規模に分散して存在することから市民や地域住民が所有する方が自然である。また地域の資源から得られる利益はその地域に還元することが望ましいことからもそのことは言える。


どこでも、住民が持つほうが、企業がもつより導入の速度ははるかに大きいのです。なぜかというと、企業は最大利潤を追求する。既存の発電方法より自然エネルギーの発電コストが安くなれば、導入するが、そうでなければ導入しないのは当たり前の話です。しかし。住民は、そうでなくても、それ以外の理由で導入する。太陽光発電を導入した人は。儲けようと思っている人はなく、環境保全に貢献したい、原子力発電の電気を使いたくないなど様々な理由で参加。同時に、自分が買っている値段より発電コストが安くなれば、普及はさらに進むのです。同程度の社会的費用でどちらのやり方で普及が進みやすいかを考える時、市民参加の普及のほうが、社会全体の負担ははるかに低く、それで普及がどんどん進むといえます。



5.市民主導再生可能エネルギー普及による社会的インパクト



市民参加で再生可能エネルギー普及がすすめば、CO2削減や、大気汚染改善などの環境改善効果や、再生不能資源の枯渇を防ぐ効果など、いい影響が出てきます。それ以外にも、さまざまな社会的インパクトがもたらされます。


国産のエネルギーということで、エネルギーの自給率が高まります。自然エネルギー産業という新しい産業が発達し、雇用が増えます。風力発電が早くから導入されたデンマークでは、世界の風車の約半分が生産されるほどメーカーが育ち、3万の雇用が生まれています。


途上国、特にインドでは、自然エネルギー普及により、環境保全だけではなく生活改善や、福祉向上が進んでいます。電化されていない村が電化される。トイレがなかった村にトイレができ、人間の屎尿を資源にしてバイオガスを発生させ、家庭の燃料として使用される。今まで、遠くの山まで薪を取りに行かなくてはならなかった女性たちが、バイオガスで料理ができ、あるいは太陽熱を利用したソーラークッカーで料理ができるようになる。アジアの大人口をかかえた地域に対して、日本がどう貢献するかということを考えると、日本の再生可能エネルギーの普及を推進して産業を発展させ、技術を向上させれば、大きな貢献をすることが可能になるということです。同時に、今の戦争はすべて資源紛争であり、そういうものをなくす意味でも、自然エネルギー普及は平和貢献にもなるということです。


デンマークの風力発電機産業は、500万人の人口(兵庫県と同規模)で、世界の半分の風車を生産しています。生産シェアが伸び、雇用が伸びているということです。日本の場合、住民が損をしながら設置した結果、太陽光発電機の生産は世界一です。市民による普及が健全な産業を発達させます。


国際的な意義を考えると、特に途上国の問題は重要です。仮にインドが日本と同じ一人あたりのCO2の排出をした場合、今の大気中のCO2濃度の増加速度は現在の2倍になります。中国やインドが、先進国型のエネルギー利用の道筋を通らないで、直接、再生可能エネルギー主体のエネルギー構造に転換しないと、地球はいくつあってもたりない。それに日本がどうかかわるか、そこに日本の役割があるのではないかと思います。


インドの事例で、小さなソーラーができたことで、いろんな効果がありましたが、私が今回行ってとても感動したことがありました。ある村人の中に大学にいっている青年が一人いました。ソーラーの効果を尋ねたところ「ぼくが大学に行けたのは、ソーラー街燈のおかげで勉強ができた。」と。もっと田舎の村では、とらが夜になると現れるため、外に出られない。でもソーラー街灯ができたことによって、トラの危険性から開放されていました。


風力発電の導入世界第5位のインドですが、スズロンという大きな風車発電機メーカもあります。普及を通じて、持続可能な社会への転換を促す効果があると考えています。



6.おわりに 〜市民主導の再生可能エネルギー普及を通じて持続可能な社会へ〜



注目しなければならないことは、生産の中で、物的生産とならんで、重要なエネルギー生産の部分が、自然エネルギー普及を通じて企業から市民の手に移っていくことです。環境保全を推進することは、生産手段の所有者が変わっていくということです。つまり生産関係が変わっていくことです、これはまさに、社会体制の変化とかかわります。同時に私達は循環型社会を必要としています。

ものの循環型化というのは、私達市民が消費し廃棄するという過程がなくなり、使用過程に変わります。その使用過程が、資源から製品を製造する動脈過程と、使用後の製品から再資源化する静脈過程の真ん中に組み込まれます、つまり市民が生産に深くかかわることになります。これも市民の生産関与が強まることです。生産関係に大きく影響します。生産手段の社会化とは国有化などではなく、環境保全を通じて市民が生産にかかわることで、生産の内容をコントロールするようになることだと思います。それが民主的におこなわれるとき社会は、当然今の社会から変わります。そういう意味で持続可能な社会への転換と、環境保全活動とは密接につながっているのです。


(質問)
それぞれの発電の特長から、日本の自然エネルギーはどうあるべきとお考えですか?日本では太陽光はすすんでいるが、発電容量の大型の風力の方がむいているのではないでしょうか。


(質問)
ドイツ、デンマークのように緯度の高いところで、太陽光は不利、日本は地震、台風があるので風力は不利、エネルギーレベルで、何年もたたないとモトが取れないのでは。あまり補助金を出して能率の悪いところで作ると、何年ももとが取れないのでは?


(答)
海外から日本に帰ってくると、日本の国土はなんと再生可能エネルギーの豊かな国かと感じる。日本には、あらゆる種類の自然エネルギーが豊富にある。太陽光・熱、風力、水力、地熱、海洋エネルギー、何でもある。バイオマスも、森林面積比率では、先進国で日本は第2位。今後は、これらのうちどれというより、すべてを普及することが重要である。


デンマークはなぜ風力を増やしたのか、フラットで山がないため、水力、地熱がない、風とバイオマスしかない。それでも、いまや、風力で電力の約20%をまかなうようになった。


私は、2100年までにCO2排出量を90%以上削減する、日本の21世紀のエネルギーシナリオを提案しているが、そのとき、100年後に使用できる再生可能エネルギー量を試算した。風力は国土の1/7の土地で発電可能な風速があり、仮にその1/3に建てたら、と試算しました。また、太陽光発電は、住宅の90%に3KW、学校に50−100KWなど。工場、百貨店などの建築物すべてに設置するなどのもとに計算した。その他の自然エネルギーについても利用可能量を試算すると、提案したエネルギーシナリオは十分に実現できることがわかった。この推算では、あくまでも現在の技術水準をもとに行ったが、たとえば太陽光発電の効率は今後、現在の水準よりはあがっていくことは間違いない。現在10%の転換率がさらに上昇すると考えられる。そうすると、私が試算した以上に太陽光発電は電力を生み出せる。いま自然エネルギー電力の買取保証をやれば、普及が飛躍的に進むが、買取保障するのに初年度2000億円程度あればよい。しかし原発のために税金で約4000億円使われている。エネルギー予算の使い方を変えれば、再生可能エネルギーは大きく普及し、将来性ある産業の発展も起きる。


自然エネルギー装置の生産にかかったエネルギーを、その装置がどれぐらいの期間で生産することができるかという、エネルギーのペイバックタイムでみると、一番長い太陽光発電で2−3年、アモルファスでは1年程度、風力、その他の場合で何ケ月、そういうオーダーなので、いまではエネルギー的には損をすることは決してない。


普及することによってコストをどう下げるか、それを早くやった国は世界のリーダーになる。日本が将来、国際的にも評価されるよう、戦略をもつことが重要な点である。日本に太陽光発電だけでなく、風力発電機など自然エネルギー関連メーカーを育てなければならない。日本の条件に適合した風車や自然エネルギー装置を生産しなければならない。そのためにも普及を推進するしかない。



(質問)
一次エネルギー別に見て、自然エネルギーが増えても、化石エネルギーの伸び率がマイナスになりCO2が減らなければ意味がない。市民活動で自然エネルギーの普及は望ましいと思うが、基本的には産業エネルギーを転換することが必要だと思う。CO2を減らすことと、自然エネルギーを増やすここと、二つの問題を解決することが必要。
また、たとえば里山のバイオマスは、自然エネルギーとしてではなく、CO2の吸収源として売るのが合理的だと考えるがどうか。



(答)
当然石油、石炭を減らさなければCO2は減らない。いかにして減らすかである。原発も同じである。日本の場合、エネルギーのベストミックスという耳障りのよい言葉があるが、これは原子力をふやし、自然エネルギーもそこそこ増やすことを前提とした考え方である。そうではなく、危険な原子力をやめ、自然エネルギーを飛躍的に増やせば原子力は不要である。すでに、先進国では原発が減っている国が多い。ドイツでは、自然エネルギーの伸びが大きく、原発、化石エネルギーはマイナスになっている。そのために市民参加が必要であり、それを可能にする政策が必要。そのような取り組みを通じて、産業で使用されるエネルギーも転換される。市民が普及した自然エネルギーは市民だけで使用するわけではない。世界全体としてそうするために、ドイツでやっているような政策を各国がもつことである。


(答)
森を吸収源として活用するには、植林しなければならない。日本の間伐もおこなわれていない森林は、吸収源にはならない。間伐材をエネルギーに利用することは、プラスはあってもマイナスはない。インドのような成長速度の早い熱帯では、潅木を利用して木質ガス化発電をしている。休耕田で、エネルギー作物を植えるなら、マイナスはありえない。野生の森林を破壊することは生態系の破壊など様々な理由で問題である。ケースバイケースだろうと思う。


(以上)