トップ  >  1994集会  >  [第4分科会 基調報告] SSを目指すエネルギー科学技術の課題と展望  西川栄一

[第4分科会 基調報告]
SSを目指すエネルギー科学技術の課題と展望



神戸商船大学 西 川 栄 一



1 分科会の課題と議論の視点


11 現在生じている公害環境問題、とりわけ大気汚染、温暖化、酸性雨など地球的規模の環境問題の多くはエネルギー消費に原因しており、環境問題に関わってエネルギー問題は最も重要である。この分科会の課題は、このエネルギー問題をテーマにして、環境保全型エネルギー体系を目指すためには、科学技術の研究開発(R&D)の方向はいかにあるべきか、を議論することである。


12 議論を進める上で3つの基本視点をあげておきたい。
  1つは、エネルギー環境問題の技術的要因をどうみるか、である。環境破壊の現象とそれを引き起こしている技術的メカニズムを正しく把握することは、対策を検討する出発点だからである。
  2つは、環境問題を引き起こすようなエネルギー技術を開発し、利用するようになっている原因をどうみるか、である。技術は生産活動のために利用されるから、この論点は技術利用と経済社会システムとの関わりを議論することになる。そのためには人の生産活動において科学技術の役割はなにか、その正しい見方が大切である。
  3つは、科学技術の現発展段階をどうみるか、である。上の2つの視点からの議論によって、環境に関するエネルギー科学技術の問題点がわかったとして、ではこれからSSを目指していく上で、科学技術のR&Dを進めるに当たってどんな方針で臨むべきか、という問題である。



2 エネルギー消費に関わる資源環境と廃棄物環境(視点1)


21 エネルギー消費が環境問題を引き起こす原因はさまざまであるが、最も大きな原因は、石油、石炭などの化石エネルギーを燃料という形で大量に消費する点にある。人は動力、熱、光、電気などさまざまな形態のエネルギーを必要とするが、そのほとんどのエネルギー源を化石燃料に依存している。そして多くは化石燃料の燃焼熱を蒸気タービンやディーゼルエンジンなどの熱機関を利用して、まず動力エネルギーに変換し、さらにそれを各種形態のエネルギーに変換して消費する。エネルギー技術に関して現在は熱機関時代と呼ばれたりするほどである。しかし熱機関は1つの技術的手段であって、唯一の動力技術ではないし、エネルギー資源も化石燃料が唯一ではない。
  人のエネルギー消費に関わる環境問題の主因が化石燃料の大量消費にあるとすれば、化石燃料利用のエネルギー技術をどう転換するか、およびエネルギー大量消費をどう減らすか、という課題に取り組まねばならない。


22 エネルギー消費というが、消費したエネルギーが消えて無くなるわけではない。人はいかなる活動であれ、その活動をするには必ずエネルギーを必要とする。エネルギー消費とは、その活動に必要な形態のエネルギー(有効エネルギー)を使って目的の活動を行なうのだが、その活動の過程で無用な形態のエネルギー(無効エネルギー)に変えることである。逆にだから、自然界のエネルギーを使って有効エネルギーに変換することをエネルギー生産という。したがってそこから有効エネルギーを取り込んでくる資源環境と、そこへ無効エネルギーを放出できる廃棄物環境がなくては、人はエネルギーを利用できず、したがっていかなる活動も不可能である。


23 エネルギーに関わる環境問題は資源環境、廃棄物環境のいずれでも生じるが、現在の環境問題の主要な側面はどちらにあるのだろうか。どうみるかで対策の方針には大差が生じる。生じている現象の科学的な分析が大切である。この分科会では現在最も重大で、最も緊急に対策が急がれている問題の1つである温暖化問題を取り上げて議論する(泉報告)。



3 科学技術と経済社会システム(視点2)


31 人間は必要なものを入手するのに、技術を利用して組織(社会)的に生産する。技術とは、労働生産性を上げて生活をより安全に、より労苦の少ないものにするために、自然界に存在するものや関係を導入する手段である。技術は労働の補助手段、つまり労働手段である。


32 人は生活するのにさまざまなものを必要とするが、それらを過不足なく生産し、社会に分配するのに、人間は利用する技術に適した経済社会システムをつくる。現在の社会経済システムは、利潤獲得を動機とした競争生産方式をとる資本主義である。生産の単位組織は企業であり、企業は利潤獲得を目的にして生産活動を展開する。生産物の社会的分配は、生産物を商品として市場に出し、市場で評価された商品価値の売買交換によって行われる。利潤は、現象としてはその生産物の売買によって得られた商品価値と生産コストとの差で測られる。


33 現在の経済社会システムの基本的特徴の1つは、企業は競争に負けないために生産コストの低減、生産物の市場獲得に全力を上げねばならないことであり、ために生産力が急速に増大することである。2つは、社会全体に優先して企業利潤のために生産活動が展開されることであり、ために環境問題は企業利潤に関わる限りにおいてしか考慮されないし、利潤のためにあえて環境破壊行為がとられることも生じる。


34 エネルギーの生産、消費に関しても例外ではない。エネルギー資源から有効エネルギーへの転換をおこなう石油会社や電力会社などエネルギー生産企業は、有効エネルギーを商品としてつくるのだから、つくられた石油製品や電力はできるだけ多く売れねば(消費されねば)ならない。一方その有効エネルギーを使って他の生産物をつくる企業は、その生産物の生産コストを下げるために有効エネルギーの選択と省エネが追求されるが、あくまでもその企業の中だけの生産コストを下げることが目的である。だからエネルギー価格が下がったりすれば省エネ努力はたちまち後退する。そして省エネで商品価格が下がれば、それだけ商品がたくさん売れねば(消費されねば)ならないから、社会全体としてはなかなか省エネにつながらならない。


35 以上の次第で、エネルギーの大量消費は、現在の経済社会システムすなわち生産システムのメカニズムと深く関わっている。


36 生産コストを下げる決定的な手段は新技術の開発である。生産競争の中で激しい技術開発が展開され、そのための科学研究活動も大いに奨励され、生産性は急速に向上する。それはしかし、利潤を上げるため、より低い生産コストでより売れる商品をつくるためであり、31に述べた技術本来の目的とは異なっている。


37 本来の目的でない、企業利潤の追求手段として技術が開発利用されてきたことが、公害環境破壊を引き起こす主要因となっている。しかしこの側面だけをみて、科学技術否定論(反科学技術論)をとるのは間違いである。技術は、本来は31のように、より安全でより人間的な生活を目指して労働生産性を上げるための手段であって、この側面をみないで科学技術を否定するのは人間否定にいきつく危険性がある。生産活動を効果的なものにするために自ら技術をつくり、それを利用するのは人間だけである。技術を開発利用することでヒトは人間になったのだからである。


38 生産活動ばかりでなく、あそび活動にまで技術が利用される現代、環境破壊をなくし、環境保全型社会を目指す上で技術の果たす役割は決定的である。われわれはそのための科学技術の開発利用に努力しなければならない。しかしだからといって科学技術万能論に立つのもまた正しくない。こちらは、現在の科学技術の多くが利潤追求のために開発利用されている現実をみていないからである。


39 エネルギー生産企業では生産コストを下げるために、エネルギー経済性向上を目指して技術の研究開発が強力に展開される。エネルギー経済性はエネルギー資源価格とエネルギー変換効率で決まるから、この2つを指標に利用すべきエネルギーシステムが選択される。こうして化石燃料利用の熱機関が採用されているのが現在である。エネルギー消費企業でも事情は変わらない。

  エネルギー変換効率の高い技術を開発利用していることを日本の産業界は自慢し、日本は省エネに、ひいては環境保全に最も努力していると主張するが、それはあくまでも生産コストを下げるためであって、省エネそのものが目的ではない。交通輸送活動は基幹的生産活動の1つで、かつ多量のエネルギー消費を伴う。ためにその技術開発と省エネは最も厳しく追求される技術分野であるが、現在の経済社会システムの中ではどのように展開されているのだろうか。具体的な重要問題として分科会は大阪湾ベイエリアの交通輸送施設の開発計画を取り上げる(田中報告)。



4 転換期の科学技術、これからの課題(視点3)


41 技術は、環境と生産の関係からみても、技術の発達史の視点からみても、現在大きな転換期にさしかかっている。環境面では、地球規模の環境破壊の進行を食い止めなければならない。このことは誰も否定しない。そのための生産のあり方をSDというとすれば、それは生産活動に対して、空間軸だけでなく、時間軸をもあわせた高度な社会的管理を導入していくという課題を提起する。これを可能にする技術はなにか? 技術の発達史は、一体道具時代→複合道具時代→機械時代→コンピュータ機械時代と大別される。現在はコンピュータ機械時代への転換期にある。そうだとすれば、コンピュータ技術がSDを目指す生産システムのキー・テクノロジーとなる?


42 人間社会の歴史は、技術体系と経済社会システムとの間に密接な関係があることを示している。とすれば技術体系の転換と合わせて、経済社会システムの転換も視野に入ってくることになる。この議論は他の分科会の課題であろう。


43 環境保全型生産技術の開発利用を目指す上で、2つの面がある。1つは環境保全型技術そのものの研究開発である。現在この面で日本の現状はどうであろうか。その実態と問題点を検討する必要があろう(川原報告、勝部報告)。もう1つは科学技術政策である。ここでは日本のエネルギー政策の問題点とあるべき方向について議論するとともに(大島報告)、科学技術者のおかれている現状と問題点について議論し(小野塚報告)、環境保全型生産技術の開発利用を目指す条件を探りたい。


プリンタ用画面
前
第4分科会解題 「サステイナビリティとエネルギー・科学技術」  西川栄一
カテゴリートップ
1994集会
次
第5分科会解題 地球時代の環境政策と法制度  筧 宗憲

コンテンツメニュー
(C)Copyright 2006 - Sustainable Society Network. All Rights Reserved.  [ サイトマップ | お問い合わせ | ログイン ]