[第5分科会 基調報告]
永続可能な社会の環境政策と法システム
山村 恒年
1.新しい社会理念の展開 ― 誰のためのSDか ―
「永続可能な発展(SD)」を考えるためには誰のためのSDかを明らかにする必要がある。人類のためか全生態圏のためか。SDは後者のためであるべきだとすると、そのためには、次のような新しい社会理念が展開される必要がある。
(1)形式的民主主義から実質的民主主義へ
現在の議会代表制民主主義は形骸化し、行政国家化している。それは一割民主主義でしかない。実質的な民主主義を達成するためには、地方分権・NGO分権・議会の実質的能力の強化・多元的参加システムが工夫されなければならない。
(2)人間中心的法治主義から生態学的法治主義へ
現在の法治主義は個人の人権中心主義である。その人権のカタログの範囲も狭い。環境権や自然享有権・入浜権等は公共の利益ないし法益として、個人の権利性は認められていない。自然自体の利益は、保護法益の一部として立法化されるにいたったが、権利性はなく、その範囲も極めて狭い。現在の個人人権中心主義から人類環境権、生態系環境権をも含めた法治主義へと発展する必要がある。
(3)生態系公共信託論へ
日本国憲法の前文・11条・97条は、人権についての公共信託論の考え方に基づく。これを、地球上の生態系のバランスは、将来の人類及び生態系から現在の人類に信託されているものと考え、現在の人類及び国家は、これを善良な管理者の注意義務をもって、良好に管理し、次世代に引き継ぐ義務の理念を確立する。
2.永続可能な社会の環境倫理
現世代の最大多数の最大幸福を追求する功利主義的民主主義に基づいては、永続可能な社会は望めず、次のような新しい倫理理念が必要である。
(1)地球生態圏主義
地球をトータルな生態圏ととらえ、その全体が正常に行なわれる範囲内で人間活動は評される。
(2)世代間倫理
現世代人は、次世代人の生態圏に対する義務として、それを害さず、良好に移転する義務がある。
(3)土地倫理
人類は、土地上の「生命共同体」の統合・安定・美を保つべきである。
3.環境経済学からのアプローチ
(1)物質代謝論(エントロピー論)
経済活動を単なる商品流通過程にとどまらず、エネルギー変換・物質加工・最終消費・廃棄物処理を含めトータルにとらえ、環境汚染の抑制をその全体収支の角度からとらえるべきである。
(2)社会的費用論
人間活動の環境に与える負荷による損失を、原因者に負担させ、負荷物質の消費に環境税を課するなどして社会的公正を図り、負荷を減少させるべきである。
(3)地域における内発的発展論
国家の産業政策が、中央集権化を促し環境破壊につながったことに鑑み、地方分権による地域内の循環経済により、自分達の資源と文化で、地域の自立と内発的発展を図ろうとすべきである。地域団体やNGOの自立的活動もこれに資する。
4.法哲学からのアプローチ
現在の功利主義的な考え方を反功利主義的な次の理念に転換すべきである。
(1)正義論
現在の民主主義は自己の利害を考えて投票するが、政策の選好に際しては、社会で一番不利な立場に立つものが不利にならないようにアセスメントして選好すべきである。「もし自分が、その一番弱者に生まれていたら」、と仮定して行動すべきである。次に、「次世代もしくは100年後に自分が生まれてきていたら」、と考えて選好し、行動すべきである。
(2)権利論
生態系を構成する生物や資源は、その永続性を保持する権利が認められるべきである。この権利は人類の多数決をもっても、侵害できない権利で、自由主義や民主主義の制約となり、永続可能な社会の人間に対する切札となる。
(3)合理的意思決定論
環境を永続的に管理するためには、人間や社会が意思決定をするに際して、合理的に判断すべきである。縦割行政や惰性的決定は不合理性の原因となる。�〔槁言瀋蝓↓�達成課題の策定、�B綢悵討涼戯�・比較評価、によるべきである。具体的には、環境管理計画・環境アセスメント・リスクアセスメント・テクノロジーアセスメント・製品アセスメント等である。
(4)討議による合理性の確保
永続可能な社会システムとして、理性的対話による、各方面からの参加による、討議システムが確保されるべきである。単なる聞き置く式の住民参加では、合理性は確保できない。
5.SD政策の国際的展開
地球サミットの「リオ宣言」は、27原則からなる。SDの課題の中心を人類とし、世代間・南北問題の公平、貧困の撲滅、市民参加と情報公開、世代間倫理、地域主義論が幾分か反映されている。キーワードは「環境と開発の統合」であるが、全体として人類中心主義。これに対し、NGO地球憲章は地球生態圏主義に立ちつつ、4.で述べた考え方が強く打ち出されている。リオ宣言を実施するため、「アジェンダ21」の行動計画が採択されたが、その実行は遅れている。気候変動枠組条約の実行も同様に遅れている。
6.SD環境政策の国内的展開
(1)環境基本法の制定
リオ宣言の「各国の効果的な環境法の制定」の勧告を受けて、日本は環境基本法を制定した。しかし、その内容は、典型七公害プラス自然環境保護と公害被害救済・紛争処理という従来の内容に、環境基本計画・国の政策決定への配慮・環境影響評価の推進・環境教育・情報の提供・地球環境に対する国際協力が加わったにすぎない。
� ‘泳,陵�念のキーワードは、「環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会」の構築である。「環境への負荷の少ない」とは、予防原則であり、消極的対応にすぎない。現に従前の環境基準や排出基準、自然に対する行為制限は改められていない。これでは、持続可能な社会は構築できない。
�◆ー,離�ーワードは「健全な経済の発展による持続的発展可能な社会」の構築である。「発展」は物質的豊かさよりも精神的・文化的豊かさであってこそSDを構築できる。SDの精髄は「人間は、自然が再生できる以上のものを自然から取るべきでない」ということである。これを基本理念とすべきである。
�� 同法は国際協調による地球環境保全の推進について規定する。リオ宣言は「地球生態系の 健全性及び完全性を保全、修復する地球的規模のパートナーシップの精神による協力」「地球悪化の寄与度による責任」と述べるが、基本法は「わが国の占める地位に応じて」推進すると規定するにとどまる。
(2)日本版アジェンダ21
これは、現行各省庁の白書の環境部分の寄せ集めの体をなし、現行行政計画の羅列にとどまっている。これでは行動計画にはならない。
(3)地方公共団体
幾つかの自治体は、環境基本条例を制定した。また、現在、条例制定を検討中のところもある。その中でもリオ宣言の趣旨に近いのは、川崎市環境基本条例である。環境権確立を目標とし、環境基本計画において環境配慮方針を策定する。市施策の環境アセスメントのための「環境調整会議」を設置している。その他の自治体にも、環境権の文言を入れるところが出始めている。また、自治体の行動計画も、幾つかの自治体でつくられたが、基本的には政府のそれと大差ない。
7.永続可能な社会の環境政策と立法の方向
(1)功利主義的民主主義から生態圏主義的民主主義への転換
未来の世代のためのオンブズマンとしての、環境保護基本権の確立が不可欠である。法システムとしては、生態圏法治主義を取り入れるべきである。
(2)集権的民主主義から多元的分権的民主主義への移行
分権主体は、自治体のみならず、地域団体・部門別NGO・市民団体も加えられるべきである。
(3)行政国家から市民討議的国家への移行
あらゆる行政過程で、市民による討議とそのための情報公開が必要である。
(4)発展の方向
物質的豊かさではなく、地球生態圏の正常性に即した地域の文化や地場産業を豊かにすべきであろう。
8.環境と発展との統合
(1)政策・基本計画・管理レベルでの環境アセスメントと環境管理計画
現在のようなGNPを指標とするのではなく、永続可能性指標を基礎とすべきである。それに基づいて、政策決定の各段階で、市民的討議のもとにアセスメントを行い、地域ごとに環境管理計画を策定し、これを政策の行動規範とする。
(2)エントロピーを入れた経済的手段
最終消費、廃棄物処理を含む全体収支のバランスを図る経済政策が必要で、環境税・環境監査等の経済的インセンティブの手段が取り入れられるべきである。
(3)効果的な法令の枠組み
� ̄並害椎修兵匆颪里燭瓩慮�果的な法令の制定と運用(国・自治体を通じて)
��行政立法・手段における住民参加を取り入れた合理的システムの設定と運用
�9埓�情報公開の支援サービス
�け並害椎修兵匆颪里燭瓩龍軌蕁�
�ケ並害椎修兵匆颪里燭瓩猟拘�行動計画とその実施・事後評価
以上の各枠組みを確保するための法令・条例が整備されるべきである。
9.南北問題と内発的発展
地球上の貧困とSDは重要な関係にある。貧困は、先進国の経済活動によってもたらされるところが多い。国内にも地方にも、南北問題は存する。それも、経済活動に起因するところが多い。日本では、過疎解消のため、国内ODAともいうべき補助金政策がとられた。にも拘らず、過疎は解消されていない。これに対し、北海道池田町、九州湯布院等のように政府や大企業に頼らずに、地場産業・地域文化の発展等の、内発的発展による地域自立運動をやって、発展を続けているところもある。途上国の環境保全と発展は、国内の過疎地域の発展のあり方と同様であって、先ず、発展の目標を環境の安定と地域の文化にすべきである。物的発展ではなく、人間の内なる自立能力の開発こそ必要である。そして、地域の自治による経済の域内循環を目指すべきである。
10.NGOの役割
地方分権も従来、「地域益」を重視しがちで、これが濫開発につながった。国益や地方益にとらわれない、環境NGOによる分権が必要である。NGOが官僚の政策独占を開放させ、政策提言ができるような基盤整備が不可欠である。
11.まとめ
永続可能な社会のためには、国民の「最大多数の自己実現」によって、永続可能な地球社会を再形成することが必要である。市民の自律性を高めて、環境管理を活性化し、実質的民主主義を確立するための法システムが必要なのである。
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第5分科会解題 地球時代の環境政策と法制度 筧 宗憲 |
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