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第8分科会「地球時代の環境教育」基調報告
環境変化の新段階と環境教育


和田 武(愛知大学)



A New Stage of Environmental Change and Environmental Education



Takeshi Wada(Aichi University) 



Abstract:Environmental change have reached to a new stage,in which natural system of the Earth is abruptly disturbed by the activity of a human being.Environmental education play more important role in the new stage than before, because social change to a Sustainable Society is indispensable to preserve the global environment.Then, what Environmental Education should be is discussed.



1.環境変化の新たな段階と「持続可能な社会」


 本分科会名にある「地球時代」とは、「地球規模の環境変化を伴う新たな段階に達した時代」と言える。では、新段階に達した環境変化はどんな特徴をもつのであろうか。


 まず、それは現象として、地球の自然システムの急激な撹乱、換言すると地球上の物質、エネルギー、生物系のバランスの急激な破壊を含む。それゆえに、それはこれまでの環境変化にはなかったいくつかの特徴をもつ。々域性、⊃聞埓、A蠍瀟関性、ど垈諜媽などである。つまり、それは地球規模の現象であり、原因発生から結果や被害が生じるまでにかなりの期間を要し、さまざまな環境破壊が相互連関しながら地球自然の全面的変化をもたらし、ひとたび破壊された自然の回復は困難で長期間を要するものである。すでに地球環境危機をもたらす原因は発生しつつあり、早急にその除去に取り組まなければ人類の将来は危うい状況を迎えつつある。


 また、影響の面からみると、原因発生地域に限らず地球上のあらゆる人々に、世代を越えて長期にわたって重大な影響と壊滅的な被害をもたらすという特徴をもつ。


 さらに原因の面からみると、具体的には、〇餮擦梁舂椋亮茵↓廃棄物の大量放出、自然破壊的開発、だ鐐茲鳩鎧活動、などがあるが、根本的原因はこれらをもたらした社会のあり方(政治・経済システム、生活様式、科学・技術、文化、などあらゆるものを含む)にあるという特徴をもつ。


 したがって、今日の環境破壊を防止し、地球環境を保全するために、人間活動による環境変化を事前に科学的に予測し、それに基づいて予防的に対応することが不可欠である。これまで人類はさまざまな矛盾に対して、影響や被害を体験することを通じて認識を深め、解決を目指すという対応の仕方をとってきた。しかし、今日の環境問題に関してはそのような対応では手遅れになり、重大な事態を招くことになる。


 今日の環境危機は、人間活動が地球自然の容量を越えてはならないことを示唆している。地球の生態系が維持され、資源は持続的に利用され、排出物は量的にも質的にも地球が処理できる範囲内に抑制されることによって自然のバランスが維持可能な「人間と自然の健全な関係」を実現できる「持続可能な社会」への変革によってはじめて地球環境危機は克服できる。


 このような「持続可能な社会」は、「人間と自然の健全な関係」とともに「人間同士の健全な関係」をも実現するものである。なぜなら、これらの二つの関係は相互に支持し合う密接な関係にあり、両者は同時並行的にのみ実現できるものであるからである。現代社会では、地球環境破壊の進行と並行して、南北間格差に代表される不平等や不公正、強大な軍事力の存在や地域紛争の頻発、非民主的な政治機構の下での権力支配、利潤追求最優先の企業における労働者の人権無視や労働阻害が存在する。人権、平和、民主主義という「人間同士の健全な関係」の破壊は、環境問題という「人間と自然の健全な関係」の破壊の原因でもある。たとえば、貧困と奢侈や浪費は明らかに環境破壊要因として作用している。また戦争のみならず兵器生産や強大な軍隊の存在は大量の資源と労働を浪費し、大量の廃棄物を放出し、さらに人間の精神的・文化的退廃を助長することによって環境破壊の重大な原因となっている。住民の声を反映できない非民主的な政治や利潤最優先の企業活動が、さまざまな環境破壊をもたらしてきたことも歴史的に証明されている。したがって、「持続可能な社会」への変革によってはじめて「人間と自然の健全な関係」と「人間同士の健全な関係」が同時に実現されるのである。



2.環境教育の現代的意義とその目標


 環境変化が新たな段階に達したいま、環境教育の重要性は以前よりはるかに増大している。なぜなら、「持続可能な社会」を民主的に実現する上で必要な広範な人々の合意形成は環境教育ぬきにはなし得ないからである。また、上述のごとく今日の環境変化はその原因発生時期よりかなり遅れて被害が発生するものであるだけに、被害体験を通してその重大性を認識することは困難な面があり、環境教育や環境学習に基づいた予測的認識と予防的対応という理性的活動が不可欠であるが、そこにも環境教育の今日的意義が存在する。


 環境教育は、従来の教科教育とは異なり、環境問題という課題を解決するという目的をもった教育である。'92グローバルフォーラムで作成されたNGO条約で述べられているように、「環境教育は社会の変革と建設を推進するものである」。それゆえに今日の環境教育で扱われるべき内容は、自然の重要性を学ぶ「自然教育」だけでは不十分である。人類の生存基盤としての自然システムについての認識を深めると共に、今日の環境破壊の現状とその本質、今後の予測、その社会的原因など、自然に対する人為的影響についての認識を深め、さらにその上に、社会・経済システム、生活様式、科学技術や文化など、あらゆる社会的事象の持続可能なあり方について、すなわちそれらすべてを包含する「持続可能な社会」についての科学的認識を深めることが不可欠であろう。


 しかし、もちろん環境教育の内容は画一的なものではない。自然に対する人為的影響は、国や地域によって多様であり、「持続可能な社会」も「人間と自然の健全な関係」と「人間同士の健全な関係」を実現するという原則は共通していても、そのあり方はそれぞれの国や地域の自然的社会的条件の違いによって多様なものであろうから、環境教育もまた多様な内容をもつべきものである。すなわち、「持続可能な社会」を目指す環境教育は、それぞれの条件にふさわしい人間の理想的なあり方を創造的に追求する教育という点で共通しているが、ある特定の方向を強制するような教育ではない。


 また、「持続可能な社会」の内容やそれに至る過程や方法の解明は今後の科学の課題である。そのために環境に関してあらゆる分野からアプローチする総合的科学とそれらの成果を統合的に体系化することを目指す統合的科学の創造と発展が図られねばならない。環境教育は、そのような環境を基軸とした新しい総合的・統合的科学を生み出す人材や社会的基盤を準備する役割を担っている。


 学校教育では、個別教科の中に部分的に「環境」を導入するだけでなく、環境と人間の相互関係についての総合的あるいは統合的アプローチが必要であろう。日本の大学では総合科目としての環境教育が増加してきているが、さらに「持続可能な社会」のあり方に焦点を合わせた統合的な教育も実践して行くべきであろう。今日の環境変化と人間活動や社会システムのあり方との関係や、地球レベルの問題と身近な問題の関係など、あらゆる事象を相互連関的、統合的に理解できる教育を行うことによって、今日の環境問題の解決を可能にする環境保全優先の価値観や行動を生み出すことが可能になる。そのような環境教育と新しい総合的・統合的科学は相互に影響を及ぼし合いながら発展するものと思われる。


 さらに、環境教育は人間の基本的権利でもあることを指摘しておきたい。誰にでも健康な生活を送る権利があり、そのために生存基盤としての自らの環境を守る権利をもっている。したがって、私たちには生存や健康を脅かす環境破壊やその原因について知る権利がある。とくに、環境破壊による被害を将来的に受ける可能性が高い若い世代はそのことを正確に知る権利をもっている。当然、社会は環境保全義務として環境教育を誰もが受けられる条件整備を行わねばならない。政府、自治体、教育機関などは、あらゆる人々が体系的環境教育を受けられる体制づくりを行う義務がある。



3.日本の環境教育の現状と課題


 環境教育の重要性は上述のごとく非常に高まっているが、日本の現状はそのような客観的情勢にふさわしいものとは言えない。政府の環境教育に対する姿勢は、昨年11月に成立した「環境基本法」の中ではじめて法的に「環境教育及び学習を振興するために必要な措置を講ずる」ことが明文化され、その具体的行動計画については、昨年末に作成された日本政府の「アジェンダ21」の「第36章 教育、意識啓発、研修の推進」においてようやく表明された段階である。


 この環境教育行動計画では、環境負荷を低減するために「経済社会システムを変えていく働きかけ」が不可欠であり、そのための環境教育の必要性を打ちだしている。この点は評価できるが、取り組みについては個々には評価すべきものもあるものの、全体として「持続可能な社会」の実現を目指す体系的環境教育の確立の観点が不十分である上、計画性と具体性に欠けている。さらに、本来、社会全体の環境教育体制を構築する中核となるべき大学における環境教育の位置づけも計画も全くない点は疑問をもたざるをえない。


 上述のような環境教育の目標を達成するには、学校教育(とくに大学教育)を軸に、家庭、企業、自治体、NGOなど、あらゆる環境教育を有機的に関連付け、社会全体として「持続可能な社会」を実現できる体系的環境教育体制を構築することが必要であろう。そのような状況を生み出すためにこれから準備すべき条件は、ヾ超教育の指導者となる多数の人材の養成、環境教育研究や環境科学研究の一層の発展、B燭の環境教育機会の提供、ご超教育手段の整備と充実、イ修譴蕕鮖戮┐觝眄基盤の確立などである。


 大学は、,筬△鮹瓦γ羶瓦任△蝓↓やい砲いても重要な役割を果たす。したがって、大学における環境教育の推進は当面の最重要課題であろう。最近の「大学環境教育研究会」の調査から、近年、とくにUNCED開催前後を中心に環境関連科目が急速に増加している。また、一般教育(共通教育)科目として実施されている環境関連科目の中では総合科目が過半数を占めている。複数の科目群からなる副専攻コースとして「環境」を設置している大学もあらわれてきた。また、以前は専門科目の中にほとんどなかった社会、人文系環境関連科目が近年増加してきている。


 しかし、それでもなお客観的情勢や学生の関心の高さにふさわしい環境教育が大学でなされているとは言えない。現在、大学生の中で環境関連科目を受講できる学生は半分以下ではないかと推定される。その原因として考えられるのは、教員の中に環境教育を実施できる者が少ないこと、大学関係者に環境教育の重要性がまだ十分に認識されていないこと、大学環境教育を発展させるための条件整備が不十分であることなどである。大学関係者の意識的な取り組みを強化すると共に、環境教育を推進しやすい条件を社会的に早急に整備する必要があろう。たとえば、環境関連の学部や学科新設を優先する措置や環境教育やその研究についてのさまざまな助成措置などが考えられる。早急に、希望する学生が誰でも受講できるよう一般教育(共通教育)科目としての環境教育を全大学・学部で実施する必要がある。また大学の環境教育担当教員がもっと増加すれば、社会教育における環境関連講座にも彼らの力を活用することが可能となる。


 さらに小中高等学校における環境教育の推進も急がねばならない。文部省は、1991年に「環境教育指導資料」の中学校・高等学校編と小学校編を相次いで作成し、各学校に配布している。日本政府「アジェンダ21」では、「教師用指導資料の作成・配布、教員の指導力の向上を図るための環境教育シンポジウム・研究協議会の開催等の取り組みを一層進める」としているが、環境教育の実施義務はなく学校まかせになっているため、現在の実施状況すら定かでない。学校管理者の回答では「実施している」比率は高いが、中学校の一般教員に対する調査では「環境教育に関わる授業を行ったことがある」のは11%に過ぎない(堀内、1991)。筆者の大学生対象の調査(1992)では、環境問題について、小、中、高等学校で学んだと答えた学生はそれぞれ、13%、27%、68%であった。在学中に1度でも学んだ経験があればこの数値に含まれるはずであるから、環境教育を行っている教員や授業の比率はこの数字よりずっと低いことになる。これらの調査結果から、小中高等学校での環境教育はまだまだ普及しているとは言えない状況にあることは確かである。


 また、その実施形態も個別教科の中で扱うものであり、総合的、統合的に扱うような教科はない。環境を主題とする科目設置の実施、各学校の自主的な環境教育計画の作成と実行、教員養成大学や教職課程における環境関連科目の必修化、現職教員の研修体制の確立、教育用テキストの作成などが急務である。そのための体制整備が不可欠であり、文部省や自治体の教育委員会の積極的な施策が必要であろう。また、現在、個々の意識的な教員が取り組んでいることは「日本環境教育学会」の大会での発表などからも分かるが、その内容は「自然教育」中心にとどまっているように思われ、「持続可能な社会」を意識した内容のものを取り入れていく必要があるのではなかろうか。


 このような学校教育の充実を柱に、日本政府「アジェンダ21」で述べているような地方公共団体の環境教育事業の充実やネットワークづくり、NGO等の民間団体の環境教育活動の支援、さらには企業における環境教育推進を加えて、社会全体の環境教育実施体制が整備されたとき、「持続可能な社会」への展望が開けてくるはずである。

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